本のソムリエ〜「もう一度楽しみたい!」となる書評と映画評〜

「あなたの人生を変える本が、きっとある」というコンセプトのもと、本や映画の紹介をしています。「こんな見方があったんだ!」と、作品の魅力を引き出す評論を書いています!

こんなに苦しいなら愛などいらぬ?『孤独と不安のレッスン』

 

 

 

孤独と不安のレッスン (だいわ文庫)

孤独と不安のレッスン (だいわ文庫)

 

 

 

 

 
長年連れ添った恋人と別れた時。信じていた友人に裏切られた時。人間関係で苦しんだ時、人が取りがちな戦略がある。それは『他者』を作らず相手を全て『他人』とすることである。
 
人間関係には『他者』と『他人』がある鴻上尚史は言う。『他者』とは、「受け入れたいのに受け入れられない関係」であり、同時に「受け入れたくないのに、受け入れなければいけない関係」のことである。一方で、『他人』とはそうした感情的なしがらみのない関係であると言うことができる。
 
多くの人にとって、最も身近な『他者』は、無理解な親(親にとっては無理解な子ども)である。人によっては、恋人や友人関係も『他者』にあたる。『他者』との繋がりは人に大きな幸福感をもたらす。
しかし、幸福と絶望、喜びと悲しみは表裏一体の関係にある。相手を愛すればするほど、失った時の 独感は深く、また時には憎しみに変わることがある。まさに、「こんなに悲しいのなら 苦しいのなら………愛などいらぬ!!」となるのである。
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自分の世界から『他者』をなくす「愛などいらぬ!」は一つの自己防衛の手段である。人間関係で傷ついた時、人は『他人』だけの世界に逃げ込みたくなる衝動に駆られる。そこでは人から深く傷つけられることがない。
 
しかし、『他者』と交わることなしに成熟はありえない。相手への深い愛情も、いつまでも自分を許すことのない葛藤も、『他者』との繋がりの中で初めて生まれるからだ。閉鎖的で自己完結していては成熟の機会など与えられない。
『他人』との離別に人は心を傷めない。一方で、深く愛した『他者』との別れは自分の心を深く突き刺す。心の平穏を求める場合、どちらと付き合えばいいかなどは一目瞭然だ。
だが、『他人』は自分の心を傷つけることがない代わりに、孤独に対しても無力である。
『他人』は、あなたの孤独と不安に対して、基本的には無力です。
一週間で忘れていく恋人は、あなたの孤独を深いところでうるおしてはくれないし、不安を一時的に忘れさせてくれることもありません。
けれど、『他者』は、あなたの孤独と不安を和らげるのです。
そして、もちろん、別な時には、あなたの孤独と不安を深くするのです。
(pp.141-142)
自分の孤独を心の底から癒すのも、また深くするのも『他者』の存在であると鴻上は語る。激しい感情は『他人』ではなく『他者』によってのみもたらされるのだ。
 
『他者』の存在を認めることは、気が狂うほどの孤独に苦しむリスクを引き受けることである。孤独と不安を受け入れる覚悟がどれだけあるか。それこそが成熟度合いを測る指標なのだろう。